「ある戦慄」がある!

きっと傑作なんだろうけど、なんか怖くて観れない映画ってないだろうか?
ある!私には!
1967年のアメリカ映画「ある戦慄」だ。
先日、勇気を出してやっとついに観た。

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お話の舞台はニューヨーク。深夜の地下鉄車内。走る鋼鉄の密室だ。
そこに乗り込んできたのは2人のDQN。
彼らは酒と暴力のニオイをまき散らしながら、居合わせた乗客に次々ニヤニヤからみ、恐怖に直面した人々の弱さや本性が無惨にムキ出しになっていく…

「観たらきっとイヤ~な気分になるんだろうな~」と思っていたのだが、いざ観てみると予想の3兆倍ぐらい本当にイヤ~な気分になる傑作だった。
そして自分の体験した「ある戦慄」を思い出した。

ひと昔前、東京に住んでいた頃のこと。
仕事帰りの電車の中で本を読んでいた。夜の特急電車。車内はチョイ混みぐらい。
先ほどから何やらオジサンが話をしていることに気づいてはいたのだが、ふと違和感。
オジサンの話し声に対する相手のリアクションが皆無なのである。
顔を上げ、ふとそちらを見ると、ドアの両脇にホームレス風のオジサンとフワッとしたカワイイ格好をした女の子が立っていた。

オジサンはニヤニヤしながら女の子にむかって
「いや~本当にキレイだあ~キレイな顔だあ~」とか「そのままでいい~、いいよ~」などとノリノリAV監督みたいな言葉をずっと投げかけている。
対して女の子は無言。堅い表情でジッとうつむいたまま。

イベントで何か失敗して落ち込む内気アイドルと、それをはげます社長さんか…色々と大変だなあ…ってそんなワケあるか!
フワッとしたチョイ不思議系ファッションの女の子と、ホントに電車賃払えたのか不思議系ファッションのオジサンでは接点なさすぎだろ!
女の子が、オジサンにからまれてることにやっと気づいた。

地球上のすべての男子が、夜寝る前、天井の木目を凝視しながら
「我、いつの日か、窮地に陥った女子を救うため、この身を盾にし命を賭して戦わん。」
と誓う。
男は誰も女を守るために生まれた戦士。やるべきことは決まっている。この娘を救うのだ。
それにもしも気づかぬフリをしても自分だけは気づきまくりあげている!
ビビって何もせず逃げたなら部屋に帰った後
「まったくワシってヤツは…あーすれば良かった…こーすれば良かった…」
と押し寄せる後悔と自己嫌悪にウジウジ懊悩し ↓

img001.jpgトリミング
…とマンジリともせず天井の木目を凝視することになるのは必至。

やはりマンジリとはしたいので、ここはビシッとオジサンを注意!するのはなんかだいぶ怖いので、ナチュラルにオジサンの無理な恋路の邪魔をすべく「え~っと…」などど言いつつ「路線図を確認しようとする人」のプチ名演技でオジサンと女の子の間にノソリ割り込んだ。

「え~っと府中の次は…」とかブツブツ言いつつ、全然興味のない路線図をトヨエツの細い目で凄い見ながら「何とか今の間に!なるべくオジサンを刺激しないように!ここを離れてくれ!」と心の底から願った。

しかし女の子は動かない。
たぶん、困惑や恐怖で固まってしまったのだと思う。こういう気持ちは私も良くわかる。

そしたらオジサン、私に向かって
「この娘とず~っと話してて乗り過ごしちゃったんだあ~」
とヘラヘラ話しかけてきた。
「はあ…そうですか…どちらまで行かれるんですか?」
と親切好青年の名演技をした私をオジサンはドS映画監督みたいにガン無視。
「ね~?ずっと話してるんだよね~?ん?どうしたあ~?やっぱりオジサンと話すのはイヤかあ~?」
…と大根を押しのけ、ついに女の子にその手を伸ばそうとしてしまった!

私はすかさず、ヒャッハー軍団が放ったボウガンをビシッと指で止めるケンシロウのようにオジサンの腕をビシッとつかめるはずもなく
「ちょっ!タッ!タッチはダメですよっ!」
とお触りが過ぎる困った客を必死でなだめようとする気弱なキャバクラ店員みたいになってしまった。

するとその時!
「テメーッ!!さっきから、いいかげんにしろーっ!!」
怒号が車内に響きわたった。
声の主は、ちょっと離れた場所に立っていた30代前半ぐらいのサラリーマン。スーツを着てメガネをかけたキリリとした感じのお兄さんだ。

「テメー!もうやめろ!それ以上やったらチカンだからな!」
「なんだあ~!俺はこの娘と話してただけだろうが~!」
「うるせー!イヤがってんだろうが!テメー降りろ!消えろ!」
「なんだと~!オメーが降りろ~!」
「俺は降りねえよ!テメーが降りろ!それにな…テメーさっきからクセエんだよッ!!」

いかなる強者でもヘコませる必殺のラストワード「クサイ」を引き金に、実際、申し訳ないが本当に最初から車内を夜の新宿の裏路地のニオイにチェンジさせていたオジサンは「ヴェウワアアアア!!!」というような名状しがたき奇声を発しつつ、理性を無くした獣のようにキリリーマンに襲いかかった。

その時!
それまで静かに座席に座っていた中年の男性が2人。
1人はMr.オクレさんみたいなヒョロッとしたおとなしい感じの方。
もう1人は、平泉成さんみたいなおだやかで優しそうな感じの方。
それぞれ離れた場所に座っていたそのお2人がスッ!スッ!と立ち上がり、猪突猛進中のオジサンの腕を、まるで熟練コンビのように両側から柔らかく抑え、優しく肩に手を回し
「まあまあまあ、お父さん、まあまあ…」
とほがらかに笑いかけながら、ちょうど停車して開いたドアから、サッと連れ出したのであった。

お2人とも全然、武闘派には見えない。
千原ジュニアさん言うところの
「えっ!?自分めっちゃケンカ強いん?」
ってやつである。
暴力でたたきのめすワケでもなく、恫喝するワケでもなく、「まあまあまあ」というマイルドな言葉と優しい態度だけで、車内を危機から救ったのであった。

よくしょーもないバンドが「くだらねえサラリーマンにはなりたくねぇぜ~」とか歌うが、「サラリーマンはくだらなくない!日本のお父さんたち、なかなかやるじゃん!」と思った。

ちなみにそんな私は、車内にたちこめる暴力のニオイに完全に圧倒され恐怖で硬直。棒立ち。男はみんな戦士だが私はただのカカシであった。

部屋に帰り
「ああ…自分は結局、何もできなかった。
もう一生電車には乗るまい。これからはどんなに遠い場所でもドラクエ1みたいにひたすら歩いて行こう…それにしてもまったくワシってヤツは…あーすれば良かった…こーすれば良かった…」
押し寄せる後悔と自己嫌悪にウジウジ懊悩し ↓

img001.jpgトリミング
…とマンジリともせず天井の木目を凝視することになりました。
(おわり)

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