千夏クレイジーさんの歌をキチガイみたいによく聞く。
お名前が何となくかもし出すイメージの通り、時に少女のように可憐に、時に狂女のように過激に、チョイチョイおもしろMCをブッこみつつギターをかき鳴らし歌いまくる、ガールズシンガー・千夏クレイジーさん。
チャーミングがギター抱えたような千夏クレイジーさんの魅力の一つに「詩のすばらしさ」があると思う。
たとえば千夏さんのピュアな少女魂が炸裂した、好きな人の仕草をドキドキ見つめてる感じが最高の《小野さんのうた》
朝礼の時の君の金髪は けっこうめだってる
右側前列すべりこみセーフ 息を切らしながら
この場所から走って帰る 流星群のはぐれたやつ
いい詩というのは「ん?これってどういう意味だろ?」と、謎めいた呪文のように明確にハッキリとはわからないが、想像力を激しく刺激し、呼び起こすイメージが強烈に人の心を打つ言葉の魔法だと思う。
実体験を元にしたというこの歌の不思議なサビ「この場所から走って帰る 流星群のはぐれたやつ」も、聞き手の想像力を激しく刺激し、職場ではからずも目立ってしまう、あるボッチ男子の好感度大なたたずまいを思い浮かばせるではないか。
そして、それを見つめる女の子の一途な想いに何だかほほえましく胸を打たれる。
千夏さんに想われた宇宙一幸せな流星群のはぐれたやつこと小野さんには「歌が暗いから、つき合うのは無理」というあまりにもOh no そりゃないぜな理由でフラれてしまったとのことだが!
暗い…というか深い闇があるのも、小野さんにはダメでも、好きな人にとっては千夏クレイジーワールドの大きな魅力の一つ。
私が思うに、千夏さんの作る歌には「何かが終わってしまう歌」が多い気がする。
好きだった場所、季節、恋愛、家族…
大切だった何かが終わっていってしまうのを、一人静かに受け止めつつ、もう二度と戻らないが確かに輝いていた想いを胸の奥にそっとしまうような詩に、切なくも深く感動させられるのだ。
部屋にかけた風鈴はもう鳴らないよ
なぜならもう そこに風は息を吹きかけないだろう
ああ 君が手をふったら最後だな
でも その日に行きたい
ああ 息をすって はいたら 風鈴の音をもう一度聞きたい
《君が帰る日》より
また、個人的に今のところベスト1・オブ・千夏クレイジーで、聞くたびにジワリ涙腺がゆるんでしまう《助手席の春》という歌がある。
通して聞くとおそらく「家族が終わってしまうことの歌」だと思うので、メインテーマとはちょっとずれるが、私はこの歌のここがとても好きなのだ。
記憶なんてさ 足かせだよ 苦しいことも楽しくても
乗りこえたことが多くなるから 大人になったら楽になるよ
大人になってもここを通ると 人がこわくてしかたないよ
戻らないよ 大丈夫 眠れない夜があっても
《助手席の春》より
「クラス会に早く行きたい!楽しみ!っていうかあの頃に戻りたい!」などと笑顔でぬかす人の気持ちが1ミリもわからない、拷問まみれの懲役みたいな青春を過ごし、会いたくない人、通りたくない場所だらけの私はこの詩に大共感!
そしてそんな私みたいな人間に「戻らないよ 大丈夫 眠れない夜があっても」と歌ってくれるのだ!これで「泣くな」というのはそりゃもう無理!
かように多様な魅力にあふれ、心震わせる名曲メーカーな千夏クレイジーさん。
現時点で3枚のアルバムを出しておられる。
もしかすると通販などにも対応してくださるかもしれない。興味のある方はTwitterなどで問い合わせてみるべしです。
(千夏クレイジーさんのツイッター @_5922261274071 )
また、以前、ライブレポートを書かせて頂いたDodokoさんと組んでおられた最狂デュオ・ドドナツクレイジーのアルバム「げすい品格」にも、千夏クレイジーさん作詞作曲の歌が収録されており、こちらもモチロン最強である。ぜひ!
そんな千夏クレイジーさんが定期的に主催しておられる《ちゃぶ台ロックフェス》が先日行われた。早くも第5弾。
会場となる《八丁堀ジモカフェ》の真ん中にちゃぶ台を置き、それを囲んでライブを観るというアットホームかつクレイジーなイベント。
昔、スカパンクバンド・KEMURIの野外フェスに無理矢理連れて行かれ、ダンス&ダイブしまくる満員オーディエンスの波に飲み込まれ、海の藻屑みたいにモミクソにされ、酸欠で命が煙のように消えてしまいそうになったことがあるロックっぽさはみじんも無い私だし、大人になっても八丁堀のあのへんを通ると人がこわくてしかたないが、千夏クレイジーさんの歌に夢中のスエクレイジーとしてはこれは行かんわけにはいかん!
しかし、いざ行ってみると、「ロックフェス」と言ってもアコギでの弾き語りの方も多く、ダイブなどもしなくて大丈夫。
《ばかうけ》とか《おばあちゃんのぽたぽた焼き》とか食べつつ、自分のペースでのんびりまったり観れるのだ。若い子はもちろん、最近ますますちゃぶ台が似合うジジイになってきた私にもピッタリ。この懐の深さ。これこそがロックだ!たぶん!
まず最初はアンソニィさん。
「打たれ弱くて…でもこういう緊張感に負けたくない…仲良くしたい…」と、かなり緊張しておられる様子。
授業中、先生に当たられただけで生まれたての子馬のようにガクガク震えていたぐらい小心でアガリ症の鬼のような私は、思わず共感ハラハラ。
しかしいざ歌い始めると、あっという間に会場を飲み込む堂々たるパワフルな歌声で、椅子からズリ落ちそうになった。ファルセットやアカペラの歌唱なども見事。
以前、Dodokoさんのライブで美しいピアノを弾いておられたが、ギターの弾き語りもできるなんてすごい!多才!
特にラスト。
広島サブカルシーンの素敵ママこと、ゴトウイズミさんの《オー・シャンゼリゼ》のカバーは、男の子の切ないほどピュアな恋心を歌った詩に「ワシにもこんな風に誰かのことを好きだった時があったのう…」とおじいちゃんの遠いホッソリ目でホロリ。
確かな歌唱力が緊張感とガッシリ仲良く手をつないだ力強いパフォーマンスに最初から泣かされた。
次は村上冷森(むらかみ れいしん)さん。
ちゃぶ台ロックフェスの常連出演者であり、PVやフライヤーデザインも担当。
また千夏クレイジーさんのアルバムジャケットなども冷森さんが描いておられる。
歌が歌える方というのはなぜか絵も描けたり、ビジュアル製作に長けていることが多いと思うが、冷森さんも実に多才な方だ。
今回のフェスのPVの、日に灼けたVHSビデオの昭和アングラ日本映画みたいな、どこか怖くて懐かしい雰囲気、最高だった。(さまよいこんだ山奥の村でどこからか聞こえてくる童女の歌みたいに響く千夏さんの声がモノ凄いです…)
また、千夏さんの天使と悪魔な両面を白黒ハッキリ描き出したような2枚で対になるアルバムジャケットも素晴らしい。
そして、冷森さんは歌っても凄いのだ。
陰陽太極図デザイン(?)の笠をかぶり、ハーモニカを吹きつつ、スラリ長い手でギターをかき鳴らし、若い頃の陽水さんにさらに殺気と凄みを加えたような独特な艶のあるクセが凄イイ声で歌う。一度観たら忘れられない存在感だ。
生で聞かせて頂くのは今回で3度目になるが、冷森さんの歌にはいつも「死」のイメージが夕闇のように垂れこめていることが多いように思う。そして私はそこがとても好きだ。
前にMCで「高校の時にイジメを受け、睡眠障害になった」というようなことを話しておられた。そういった辛い経験が歌に反映されているのかもしれない。
今回も、イジメから逃れハエだらけのトイレにこもる女の子のことを、激しく愛おしく悼むように歌っておられた。
創作意欲があふれて狂い咲くように、たくさんの絵と歌がYoutubeチャンネルに上げられている。気になる方はぜひ一度、この死の匂い漂う美しい森の中をさまよってみるべしです。↓
次はひかるさん。
明るく、気さくな雰囲気の眼鏡女子さんだ。
ギターを弾く眼鏡女子。それはこの世に生を受けたすべての男のあこがれ。
そんな男の夢の権化のようなひかるさんが歌われたのは 「あなたの腕をもいで 指をしゃぶって 頭にのせて いい子いい子してあげる…」というような歌詞の、曲名もズバリ《カニバリズム》という男を喰いちぎるような歌であった。
イカす。
過剰な愛と血しぶき飛び散る歌を歌う眼鏡女子。それはこの世に生を受け、どっかで何かをだいぶこじらせ、ちょっとオドロ趣味が強すぎる人間になってしまった私のあこがれ。
曲名がわからないのですが「想いを伝えて欲しい」という歌詞の同じフレーズが、だんだん強く激しく変わっていく歌も、凪いでいた海が嵐になり、激情の渦に巻き込まれるような大迫力だった。
アンソニィさんと同じく「あ~!緊張するな~!」と言っておられたが、圧倒的な声量のよく通るのびやかな声で堂々たるパフォーマンス。お名前の通りひかり輝いていた。
次は久保モリソンさん。
他のイベントなどで今までも何度か観させて頂いたが、多くのアーティストに頼られているのがわかる、シブい大人なたたずまいを持つ方だ。
この日も、すばらしいギターの腕をPAとしてもふるい、他の演者の皆さまをガッシリとサポートしておられた。
そしてもちろん歌も、重ねてきた人生の深さや哀愁を感じさせるシブい味わい。
「まだだった まだだった」と、愛する人への想いがすれ違っていたことの悔恨をギターに叩きつけるように歌う姿に胸を打たれた。
お名前から、きっとそうだと思ってはいたが、やはりジム・モリソンの大ファンとのこと。「生まれ変わりなんです」と茶目っ気たっぷりの笑顔ではにかみながら言っておられた。
そんな久保モリソンさんの歌も、聞いた人のハートに火をつける魅力充分!
そしていよいよ、待ってましたの千夏クレイジーさん。
この日もサービス満点のMC全開。
部屋でギターの練習をしてたら壁を叩かれ、翌日大家さんに聞いたら隣には誰も住んでなかった…というような夏にピッタリの怪談話や、その部屋にはなぜかやたらとハエが多く、巨人を駆逐するエレンの顔で片っぱしから叩き落しているというような、たいへん勇ましいが前の怪談話と結びつけると「謎の壁ドン…お化け…ハエ…死体…埋まってる…」と連想され、事故物件感がハンパない心配な話をブッこみつつ怒涛の進撃!珍妙でカワイイ謎の新曲を含め、数々の名曲を新しいギターで次々披露。
「生きづらさを二乗して孕んだ子どもは殺すのがいいんだ」という詩が痛ましく、押し殺した怒りが噴き出すような歌い方が凄まじい《夏は死んだ》と、4畳半ピクサーみたいなモーションアニメのPVも楽しい《夏祭りは一人で行く》の、異なる2つの夏が聞けてよかった。
また、「弾き語りパンクス」の異名も持つ千夏さんのパンク魂が火を噴いた凶暴な名曲《脳内出血》も出血大サービス。
激情がゆり返し何度も襲ってくるような破壊力満点の千夏さんの代表曲の一つ。いろんな方にカバーされているのもあらためて納得のカッコ良さだった。
他にも黒千夏さんの中から《あたしはカラスと話せない》や、私が一番好きな《助手席の春》も歌ってくださった。
《ちゃぶ台ロックフェス》は、幸運にも今のところ3回連続で観に来れているのだが、3回ともこの名曲を歌っておられた。もしかすると千夏さんにとっても特別な歌なのかもしれない。
聞く人によっては心の助手席にそっと座り、人生に寄りそってくれる大切な歌になると思う。
そしてトリは大阪から参戦の脳内麻薬さん。
お名前のイメージから何となく、アシッドでサイケなぶっ飛びサウンド系の方なのかと思ったら違った。
日々の生活に根ざした歌を、アッコさんとタイマンはれるぐらいマイクと口の距離がハンパなく離れたパワフルボイスでシッカリと魂を込めて歌う方だった。
たたずまいが何となく亡くなられた作家・中島らもさんに似てるな…と思ってたら歌詞にズバリらもさんのことが出てきてビックリ!
二駅歩いて節約した金でトリスを買ったり、仕事を無くして公園でブランコにゆられたり、私には身につまされすぎる歌の数々に、らもさんの名作「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」級に心が震えた。
拍手の中、フェスの終わりが告げられ、おいとましかけたところ、千夏クレイジーさんがわざわざお声がけしてくださった。
しかしせっかくなのにいつも通り「あうあうあう~」と固まってしまい、感激感想をお伝えすることができなかった。本当にすみません。つくづく私はカラスとも人とも話せない、まっとうな人生なんて知るわけないので、せめてブログとかマンガとかいっぱい書こうとあらためて暗い決意を固めた。
ところでそんな今回の《ちゃぶ台ロックフェス》。
フライヤーの裏面がおみくじになっており、入り口で1枚引いてから席についた。
そしてライブが始まり、千夏さんをはじめ、唯一無二のかけがえのないオンリー1な魅力を持った皆さんの、魂のこもった歌を6人分もタップリ聞けた、大満足の楽しい土曜の夜になった。
私が引いたおみくじの占いは当たっていた。↓
(おわり)
■出演なさった皆さまのSNSなど(わかる方のみ、敬称略)
千夏クレイジー @_5922261274071
ひかる @uuu_kira
村上冷森(むらかみ れいしん) @cruel_queen
久保モリソン @amorrisonk
脳内麻薬 @4QKtqvyT7HTtSVX
■追記(2019年10月8日)
千夏クレイジーさんがニューアルバム『お茶わんを洗うときに聴くCD』をリリースされました!
新曲はもちろん、既存の曲も再レコーディングして収録された「千夏ベスト」とも言えるような名曲ぞろいの名盤です。
広島在住のアーティスト・たばちゃんによるジャケット、千夏さん手書きのイラスト入り歌詞カードなどもかわいい! ↓
千夏クレイジー お茶わんを洗うときに聴くCD(¥1,200)がフリマアプリ ラクマで販売中♪ #rakuma #ラクマ
ラクマで売ってます。 pic.twitter.com/aDBsiSu19O
— 千夏クレイジー (@_5922261274071) September 10, 2019