「好きな映画監督をたった一人だけ選べ!」
と言われたら、私はちょっと迷ってやはりこの人の名を挙げるだろう。
塚本晋也監督。
平凡なサラリーマンが鉄の怪物にガチョーン!と変身して、敵と戦って合体して、巨大なチンチンになって「やりまくるぞーっ!」と叫んで都市を爆走して終わる素晴らしすぎる映画「鉄男」
この自主制作映画で世界中の好き者をビンビンにさせてからというもの、今ではもう海外映画祭への招待、出品は常連。受賞歴多数の大物になられた。
しかし、昔も今も基本的なスタイルはずっと変わらない。
企業やテレビ局が出資したタイアップまみれの商業映画は撮らない。
「本当に撮りたい映画を撮るんだ!」という気持ちを曲げず、さびつかせず、私財を投入し、ボランティアスタッフをつのり、自主制作魂全開で作品を生み続けておられる鋼鉄の映画戦士なのだ。
その塚本晋也監督の最新作「野火」を観てきた。
場所は前にも書かせて頂いた広島最強映画館サロンシネマ。
しかも監督の舞台あいさつあり!ニヤリ!
生で塚本晋也監督のお姿を拝見できる!という、私にとっては東京オリンピックの500倍ぐらい大切なイベント。当然チケットゲット。
待ちに待った当日、はやる気持ちを抑え込み5時間前に到着。ドキドキしながら開演を待つ。
館長のご挨拶に続き、塚本晋也監督登場!
開口一番
「いや~、本当に素晴らしい映画館ですね~。」
といつものおだやかな口調でワシのサロンシネマをほめてくださり、この映画館の良さに1ミリも貢献していない私も、自分のことのように嬉しかった。
上映後の質疑応答コーナーでも、観客の質問に1つ1つ丁寧に誠実に答えておられた。普段は本当に物腰のやわらかな鉄男監督。
「野火」は海外の映画祭で暴力表現がトゥーマッチであるという理由で賛否分かれたとのことだが、「暴力映画はダメざます!子供に悪影響ざます!絶対!」とかぬかす人々のほうがよっぽど怖く、偏見に満ちている。
そういう人の息子、おとなしい同級生を恐喝し、女子高生たちに売春をさせ、集めた金でクラブを借り切り、月2ぐらいでセックス&ドラッグパーティーやりちらかしてる!絶対!とあらためて強く思った。
サイン会も行われた。塚本監督に魅了されたのだろう、長蛇の列ができ「ムカデ人間3」みたいになっていた。私も当然ムカデ人間の仲間入り。
私が列に並んでも良いと思うのは、この広い銀河の中で二郎ラーメンとドラクエと塚本監督のサイン会だけである。
「む…昔からずっとファンですうっ!8ミリ時代の『電柱小僧の冒険』のDVDも持ってますうっ!ウヘヘウヘヘウ!」
とドモリながら話した気持ち悪い私に、気持ち良くほほえみながら「うれしいですね~」とサイン&握手してくださった塚本監督。サインも~ろた!ウヘヘウヘヘウ!
「野火」は大岡昇平の戦争文学の古典を映画化したものだ。
監督自らが演じる1人の兵士が、行き場を失くし、フィリピンの美しい大自然の中をユラユラとさまよう。
血と汗と泥にまみれ、それらが染み込み、軍服がだんだん硬く重くボロボロの土くれのようになっていく。
「鉄男」ならぬ「泥男」と言ったところか。手作りの美術が素晴らしい。
姿の見えない敵からの突然の銃撃。爆裂する体。ちぎれた腕を奪い合う兵士。軍靴に踏み潰される飛び出した脳。ドロドロに汚れ、森や土に溶け込んでいく捨てられた仏像のような数々の死体。そして人による人喰い。
戦場の地獄絵図が妥協のない誠実な姿勢で描かれる。
前述した通り私はゴリゴリの塚本信者なので完全にひいき目で観て言うのだが見逃し厳禁の力作である。
しかしひいき目なしで観ても、昨今の日本の商業用反戦映画とはまったく違う凄みを持った、唯一無二の作品であることは間違いない。
そしてできれば今。何か世間に不穏な空気の流れている今、この夏にぜひ観て頂きたいと思う。
「野火」で心に焼け跡を。
(おわり)