昨年、「サロンシネマ」という、私が足しげく通っていた映画館のことを書かせて頂いた。
「アクト・オブ・キリング」や「罪の手ざわり」など、単館系のシブい映画をバッチリ上映してくれる、広島では貴重な、ちっちゃいけれど頼もしい映画館であった。
しかし、嗚呼!
建物の老朽化により閉館が決定。長い歴史に幕を降ろすことになってしまった。
熱心に通っていた私も、心に幕が降りてしまったような、映画「ミスト」のラストみたいな真っ暗闇な気分に。
しかし、「数ヵ月後、場所を変えてリニューアルオープンしますよ!」と聞き、ホッと安心。「その日が来たら、すぐに駆けつけよう!」と誓って、お世話になったシネマパラダイスにサヨナラサヨナラした。
しかしそれ以降、色々と忙しくなり、映画を観に行く時間が作れなくなってしまった。
生まれ変わったサロンシネマにも、結局ずっと行くことができず。
実は、リニューアルにあたって、私には懸念事項があった。
それはサロンシネマが
「今をときめくイケメンやアイドルのみなさんが出演しまくるテレビドラマ映画や、全米ナンバー1ヒットのCGてんこ盛りハリウッド超大作軍団などの、みんな大好きなステキな作品ばかりを全館フル稼働で上映しまくるでっかいシネコンみたいな、しょっぱい映画館になってたらどうしよう…」
というものであった。
もちろん、シネコンもいい。便利だし。
トイレはたいていウォシュレットで、痔主の私にはうれしいし。
ビリギャルの有村架純ちゃんはカワイイし。
しかし、シネコンばっかりになっても、私のようなマニアックな映画も観たいマイノリティーはまいっちんぐなのである。
ちょっと前、やっと映画館に行く時間を作れることになった。
上記のような不安を感じつつ、おそるおそるサロンシネマのホームページを開いた私の目に飛び込んできたのは、次のような告知であった。
活動弁士の第一人者・澤登翠さんによる無声映画上映会を開催致します。
上映作品「雄呂血」
イカす。
新生サロンシネマ、イカす。
前にもちょっと書かせて頂いたが、「雄呂血」(おろち)とは、坂東妻三郎主演のチャンバラ無声映画。
窮地に陥ってしまった生真面目な武士が、溜まりに溜まったマグマのようなやるせない思いをラストで大爆発!ひたすら斬って、走って、殺しまくる!という燃えるお話。
作られたのは昔々の大正時代。しかし、それから何年たとうとも、そんじょそこらの時代劇では、なかなか太刀打ちできない、妖刀のような異様な輝きと狂熱を放ち続ける最強ソードアクションなのである。
その「雄呂血」を、活動弁士の第一人者である澤登翠さんをお招きして上映。
私的に100%大満足なのは観る前から明らかな、シブすぎるこの企画をブッこんできたサロンシネマさんに、孤高の浪人のようなサムライスピリットを感じた。
当日、バビーン!と原付で出発。
日曜の夜だ。今までなら
「明日は仕事かあ…瀬戸内海からゴジラがコンバンワして、歩いてすっ転んで、でっかいお顔がちょうど職場にディープインパクトしないかな…」
などと不謹慎なことをドンヨリと考えたものだ。
しかし今は無職。毎日が日曜日。
「無職最高!ヒャッハー!」
と心の中で雄たけびを上げながら原付を飛ばす。
サロンシネマは、タカノ橋から八丁堀という場所に移った。市内のど真ん中。通いやすくなった人も多いかもしれない。
原付を駐輪場にとめ、人ごみの中を歩く。
途中、宝くじ売り場に群がる人々を見る。よくは知らんが、億単位のでかい宝くじの締め切り的なものがあるらしい。
「人生を運なんぞに頼ってどうする!金というものは、血と汗にまみれて自分の手でつかみ取るべし!戦いを忘れたBUTAどもよ!どけどけ~い!」
と落合信彦先生みたいに恫喝。
心の中で。
上映1時間前に到着。生まれ変わったサロンシネマについに再会!
キネ旬などでおなじみの宮崎祐治さんによる、でっかいアメリやトラヴィスさんのお出迎えにビックリ。
劇場はこのビルの8階。
エレベーターを上ってホールに出ると…
やはり宮崎さんによる、映画の名場面が壁面にグルリ!
「おお!あれはレザボアドッグスじゃ!こっちはキャリーちゃんじゃ!ワイルドバンチじゃあ~っ!」
と、ワシ大はしゃぎ。電車の中とかで時々見かける基地の外の人みたいに独りニヤニヤしながら、すばらしすぎる壁画をひたすら見上げる。
時間が来て、劇場内へ。最近ではめずらしい自由席制である。(※追記:現在は全席指定になっています)
そして、それぞれの座席には、映画の名セリフが!
私は散歩中のワンちゃんなみの困った頻尿。
そのためいつもトイレに立ちやすい通路側に座るのだが、これは色々な席に座ってみたくなるなあ…と思った。
席と言えば、靴をぬいでドッカリとイイ感じにくつろげそうな畳の掘りごたつ席もあり。
いつの日か我が両足から「きちがいシェフのきまぐれレシピ 納豆の腐れぞうきん包み」みたいなニオイが消える日が来たら座ってみようと思った。
スクリーン横には弁士台がスタンバイ。
これほど映画への愛を感じられる映画館は、全国でもなかなか珍しいのではないだろうか…?
そんな中で観た「雄呂血」は、もちろん最高。
スクリーンで、しかも弁士付きで観るのは初めて。
澤登さんの熱のこもった活弁に、クライマックスの大殺陣回りのボルテージは、ビデオやDVDで観る時の3倍増し!体が熱くなり、拳にグッと力が入るのを感じた。
澤登さんは、上映のたびに試行錯誤して、台本を改変したりされるとのこと。
その時々の台本や、微妙な間、調子のとり方などで、毎回、雰囲気は変わるのだろう。まるで歌のようだ。まさにライブ。機会があったらまたぜひ行ってみたいと思った。
同時上映の「雷電」(1928年 マキノ省三監督)という18分の短編も、驚くほど古びてないギャグと、澤登さんの絶妙なセリフまわしに場内爆笑。
そして、この2本の間の休憩時間に ↓
…という、今時はめずらしい、売り子さんによるお菓子や飲み物の販売があり。懐かしさにジィーン!
これは、この日のみ特別に行ったとのこと。レトロチックに粋な演出に拍手!映画にも、映画以外のことにも感動したのであった。
今後は、「ザ・トライブ」(実は先日観た。凄かった…) 「私の少女」 「セッション」そして個人的に一番楽しみにしている塚本晋也監督の「野火」などがカミングスーンとのこと。
観たいところに手が届く確かなラインナップ。
サロンシネマ様、これからもお世話になります。
しかし、お世話になるも何もよく考えたら、いや、よく考えなくても、無職では映画を観るお金なんか作れない。
なけなしの貯金は、血の気が引くスピードでどんどん減っていくばかり。
一刻も早く働かなければ!
…いや…でも…なんか…今はもう…
ツライ!仕事探しが!
怖い!色々と!働くのが!
さっきの宝くじ売り場はどこだ!?嗚呼!!
(おわり)