前回、電車の中でホームレス風エロオジサンにからまれている女の子を助けた!私以外の誰かが!という男らしイイ話を書いた。私以外の誰かの。
ホームレスつながりで思い出したのだが、東京にいた頃は、歩いているとなぜかよく物乞いをされた。
「兄ちゃんタバコくれないか?」
「今日、何も食べてない。いくらか恵んでくれないか?」
特に新宿とかを歩くと結構な頻度で声をかけられ、東京がインドみたいになっていた。
他の人もそうなのだろうか?
不思議に思い何人かに聞いてみたが、みんな私ほどはバクシーシされてないようだった。
その頃つきあいたての彼女にも聞いてみると
「あなたは優しそうだから…恵んでくれそうに見えたんじゃない…?」
と頬を赤らめて言うのだった。
そして時が経ち、愛が憎しみに変わったグチャミドロな別れ際の頃に同じことを聞いてみると
「ああ!?アンタ気が弱そうだから!黙って金出しそうに見えたんだろうよ!」
と鬼赤い顔で、人生にくたびれ果ててダメ旦那に八つ当たるヒステリー主婦の口調で言っていた。
しかし、よく考えたら口調が違うだけで言ってることは同じだった。
つまり「おとなしそうで、怒ったりせず、まあまあ恵んでくれそうに見える」ということなのだろう。
実際、私は面と向かって人を怒るということがほとんどできない。
それについては以前、太宰治の「人間失格」についての深すぎる論考でも書かせて頂いた。
相手に強く出られると、それがたとえ理不尽な言い分であっても、圧倒されてしまい、自分の正当性をまったく主張できない。
頭はパニック。怒っていいのかどうなのかの判断すらまったくできず、恐怖におののき、ひたすら引き下がるのみである。
まあつまり気が弱いのだ。
しかし、ホームレスの方にオモライくんされた時は、タバコはともかくお金は差し上げないようにしていた。
人にお金を恵むなんて何かエラそうでイヤだったし、通りすがりのイケてるヤリマン女子大生とかに「掘っ建て小屋、発見!カシャッ!」などと写プライズアタックされるようなボロアパートでの貧乏暮らしで、ホームレスの方々と紙二重ぐらいの気もしたし、実際人に恵む余裕もなかった。
お金を無心された時は強くムゲに断ることができないので、
「すいませんね~、今、僕もちょうど持ち合わせがないんですよ~」
というセリフをいつも言うようにしていた。
これならあまりカドも立たず、やんわりと断れるので、フィールドを歩いていてバクシーシ攻撃を受けた時の必勝アイテムとして重宝していた。
ある朝。
職場に向かうべくチャリでシャカシャカ激走。赤信号でストップしていた時のこと。
白髪混じりの長髪に歯抜け、頭にはニット帽、茶色のボロボロコートで、両手にはでかいビニール袋というホームレスの正装をしたオジサンがニコニコトコトコと私のそばに寄ってきて
「お兄さん私ねえ、体が悪くて、昔から働けなくてね…もう昨日から何も食べてなくて、いくらか都合してもらえませんかねえ…?」
と聞いてきた。
私はその時、本当に財布の中に昼の牛丼代ぐらいしかなかったし、前述した通りお金は差し上げないポリシーなので
「すいませんね~、今、僕もちょうど持ち合わせがないんですよ~」
といつも通り必勝のセリフを繰り出した。
するとオジサンは、一点の曇りもない笑顔でニコニコしながらこう言った。 ↓
いつもとは違うカウンターに私はギョッとしてうろたえ、それをしていたら仕事に遅れてしまう…というようなことをオタオタと説明しスミマセンとなぜかペコペコ謝り、ものすごく不服そうな一点の曇りまみれの顔をしているオジサンをその場に残し、信号が変わった瞬間、自転車を発進。ほうほうのていで逃げるようにひたすらスタコラ必死でペダルをこいだ。
今になってよく考えたら「ただの丁寧なカツアゲじゃねーか!」と思う!
もしかするとちょっと怒ってもいいところだったのかもしれない!
(おわり)