スキーについて思うこと

こないだ年越しそばにどん兵衛を一人ズルズル食ったと思ったのに、気づけばもう3月。春はすぐそこだ。
…と思ったら、冬がやり忘れの仕事を思い出したみたいに急にボタボタ雪が降った。
まだまだ冬だ!冬と言えばスキーだ!
…というワケで今回はウインタースポーツの華「スキー」について語ってみたいと思う。

 

スキーと言えば、ひと昔前、土方のバイトをしていた頃、千葉のほうに建築中だった「ザウス」という屋内スキー場の現場によく入った。

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車中から遠目に見ると、まるで都市の中に現れた銀色のモスラのような、凄まじく目立つ巨大な建築物だった。
作業員の数もハンパない。三国志の戦の前みたいに数千人の男たちがズラリと並ぶ朝礼&ラジオ体操第2は、なかなか力強い珍風景で、董卓の圧政でシボり取られた農民みたいにガリガリの私もモリモリ力が湧いてくるような錯覚を覚えた。

 

私に課せられていたのは、建物内部に入り、巨大宇宙船のカタパルトのような広く長くヒンヤリとしたコンクリむき出しのゲレンデに、膨大な枚数のゴムシートを1ミリの狂いもなくまっすぐに並べ、重ね合わせた部分に防水効果のある特殊な接着剤をハミ出さぬよう細心の注意を払って塗布していく作業…を職人の兄さんたちがやった後にミニローラーでコロコロする仕事だ。それと休憩中のジュースの買い出し。コロコロ&ジュース。身が引き締まる大役だ。

ザウスを造るワシ 
使いッパがジュースを持って行くと、職人の兄さんたちは、それを飲みながら
「工事現場のブルーシートの中にはシンナーありがち。よく一斗缶盗んで売りがち。一缶で40万ぐらいになりがち。」
などと、ヤンキー度ゼロの私にはまったくわからない「元ヤンあるある」で盛り上がるのであった。
社員の元ヤン率がかなり高い会社だった。

 

その中に、泉さん(仮名)という30代前半ぐらいの男性がいた。
他の社員はみな口をそろえて泉さんのことを「あの人は最強だった」と言い、「中学生の時にヤクザにスカウトされた」とか「K1ファイターをワンパンで倒した」とか実話ナックルズみたいな都市伝説を色々聞かされた。

 

泉さんは確かに逆三角形の屈強そうなガッチリボディーの持ち主であったが、とてもおだやかで優しい人だった。
仕事がわからずとまどっていると、いち早く気づき、サッとそばに来て「こうするといいよ~」と安らぎの低音ボイスで教えてくれた。
奥様と2人のお子さんの家族4人暮らし。
「最初の子供が生まれた時、お金がなくてね~。職場のボーリング大会で必死に優勝して、賞金でミルクを買ったよ。まあ、貯金してなかった自分が悪いんだけどね~。」
というプチしんみりエピソードを、目を細めて懐かしそうに話しておられた。
かわいいミニバンでわざわざいつも送り迎えをしてくださり、最初はビビってた私もスッカリ打ち解け、現場が泉さんと一緒だとホッとするようになった。

 

ある日、仕事を終えていつものように家まで送ってもらっていた時。
「今日も疲れたね~、でもきっとビールがおいしいね~。」
「ですよね~。」
などとホンワカ話していると、後ろから凄い勢いで1台の車が嫌な感じに急接近。
大学生っぽいニヤケた4、5人の男たちが乗ったその車は爆音全開、イキってあおりまくって我々の車を追い越していった。
「まあ…ああいうウカレた連中もいるよね…」
と思いつつ、ふと泉さんのほうを見ると、さっきまで柔和だったお顔が赤くピクピク、別人のような鬼の形相に。
ギョッとした次の瞬間、泉さんはアクセルをガーン!と踏み込み、頭文字Dみたいにドカーン!とあっという間に抜き返し、ウカレ学生たちの車の前に躍り出た。
そして猛スピードをキープしたまま片手をのばし、シートの下からギラリ取り出したのは、ゴルフクラブの先を切断して尖らせたと思しきマッドマックスの中でも見たことのない名状しがたき俺ジナルウェポン。
窓を開け、最恐金棒を握った鬼の腕を大きく高く外へ突き出し、ブルンブルンと振り回した。
すると学生さんたちの車はハッキリガクンとスピードダウン。しぼむように見る見るショボンと小さくなって道路の彼方に消えていった。
泉さんは妖刀ムラサメを所定の位置に戻すと「それでね~」と、憑き物が落ちたようにおだやかに戻って普通に話し始めた。
今後、元ヤンにだけは絶対に逆らうまいと思った。

 

…というワケで「スキー」について思うことは特に何もない。
いくらがんばって考えても、スーファミの「かまいたちの夜」のことしか頭に浮かばない。
っていうかそもそも「スキー」というものを生まれて一度もやったことがない。

 

しかし人生なんてあっという間。生まれたからには何でもやってみないともったいない。
未体験の世界に踏み込んでいくことで、何か新しい書くべきことを見つけられるかもしれない。
そうだ!今年はスキーに行ってみよう!
そして初めてのスキーには、私がコロコロしたあの「ザウス」こそふさわしい!いや!ザウスじゃなきゃイヤだ!絶対!さあ、すぐに出かけよう!輝く白いゲレンデが私を待っている!
……と思ったら「ザウスはとっくの昔につぶれた」とのこと。
何ということだ!何という悲劇だ!
せっかくワシが一生懸命つくったのに!
嗚呼!

建造中のザウスにて

(おわり)