タバコを吸っていた頃

 

私は、自転車に乗ってる時、片手を水平にまっすぐのばして、手信号をちゃんと出しつつ道を曲がる人ぐらいマジメそうに見えるらしく、コレを言うといつもちょっと意外がられるのだが、昔はけっこうなヘビースモーカーであった。

 

セブンスターというタバコを1日2箱ぐらい。
酒を飲む時はツマミ代わりにバンバン吸うので3箱ぐらい。
一人暮らしの四畳半の部屋はいつもモウモウとケムいマヌーサ状態。マジメどころか阿片窟の主みたいになっていた。

 

酒もタバコもやめてから、もう15年以上たつ。
昔、バイトなどしてる時、「タバコが吸えない休憩時間なんて、セーブポイントのないクソ長いラストダンジョンみたいなもの。せっかくのそこまでのがんばり全然むくわれず崩れ落ちるわ!そんなの休憩じゃない!考えられない!」と思ったものだが、今はもうまったく思い出しもしない。あの喫煙の欲望は煙のように消えてなくなった。

 

17歳から32歳まで吸い続けたタバコ。
なぜやめたのか?
明らかに体調が悪くなってしまったのである。
突然、胸に刺すような鋭い痛みが走ったり、内蔵ごと全部もどしそうな激しい吐き気がしたり。
脳裏にチラツく肺ガンの恐怖をごまかしつつ、ゲーゲーえづきながら吸い続けていた頃、叔父がガンで亡くなった。
入院、手術、退院、転移、再入院…
叔父の様子を見ていて「自分もこのままタバコを吸い続けて肺ガンとかになったら…入院費、手術代…色々と金がかかるだろう…貯金もできてないし、自分で自分の面倒をとても見きれないだろう…しかし、面倒を見てくれる人なんていない…その時、いったいどうなるのだろう?」と怖くなりやめることにした。

 

最初は酒を飲む時だけは吸っていた。
しかし、ある時、酒中にSinありな ゲスい大失敗をして自分が心底イヤになり酒もやめ、それに伴ってタバコもやめれた。

 

よく「タバコをやめても、1本でも吸ったらアッと言う間に元通り!」と聞くが私の場合、違う。
実はやめてから数ヶ月後、酒の席でジンジャーエールか何か飲んでた時、「今だけまた吸ってみようかな?」と思い、長年の友、セブンスターにひさびさ点火!一口吸った瞬間!
ぐるぐるバットもビックリの激しい目まい、レスラーに鈍器で後頭部をガンガン殴られてるような頭痛、吐き気に襲われ、気絶してブッ倒れそうになったのである。
それでイヤになって完全にやめれた。

 

アレはいったい何だったのだろう?
数ヶ月の禁煙で浄化された体がニコチンに対して拒否反応を起こしたのだろうか?
初めて吸った時でも、あんな苦痛は感じたことがなかったが…

 

とにもかくにもそれっきり吸っていない。
あの時の尋常じゃない気持ち悪さを今でも覚えているせいか、まったく吸いたいとも思わない。思い出しもしない。もしかすると もともと そんなに好きじゃなかったのかもしれない。
アルコールもニコチンも必要ないってホントに楽チンである。
やめたからといって急に体がキレイになるわけではないし、いつかきっと自分も何かしらのガンで死ぬのだとは思うが、あの「胸の痛みにおびえ、激しい吐き気にゲーゲーえづき、肺ガンの恐怖を感じつつそれでも吸う」というストレス解消のためにストレスを感じ続けなければならないという変なストレスはなくなった。

 

ところで先日、近所のスーパーに行った時。
ふとタバコの自販機を見て、その値段にビックリ!
どの銘柄も1箱500円ぐらいになっているではないか!
私が吸っていた頃は200円代だった。
国が公認してる麻薬にふさわしい、このヤクザな値段はさすがにヘビースモーカーの方はお財布に大ダメージなのではないか?

 

もし「タバコをやめたい!でもどうしてもやめられない!」という方は、例の有名な世界的ベストセラー、『禁煙セラピー』(アレン・カー著)を読んでみるといいかもしれない。
私はやめてから読んだのだが、なるほど確かに良い本だった。
つまり『愛煙家はタバコを「うまい」とか「ストレスが解消される」とか言うが、それは違う。それはニコチン中毒になっており、吸えば禁断症状が収まるのでストレスが解消されたような気になるだけ。吸わない人間にはそもそも、そんなストレス自体が無いのだ』という、どんなドラッグにも共通するカラクリを丁寧に教えてくれる本なのである。

 

私の周りだけでも「子供もできたし…タバコやめないと…」と決心、カーさんのこの本を読んでタバコをやめれた母さんや父さんが3人いた。
何度も禁煙に失敗し「このままでは肺ガンになって死んでしまう。タバコをやめたい。でもやめられない。自分は意志が弱い。ダメ人間だ。死のう!」と悩んでいる方は早まる前に読んでみるといいかもしれない。