デビル悪口

※原作版デビルマンおよび「DEVILMAN crybaby」のネタバレあります

 

 

永井豪先生の「デビルマン」を読むといつも泣く。
ラストのサタンの懺悔でいつも泣く。

 

わたしはゆるせなかった。わたしが命をかけてまもった地球をよごした人間を!
わたしは人間をほろぼすことにした…
だが それは神が デーモンをほろぼそうとしたことと同じ行為だった…
力の強い者が強いからといって 弱者の生命を、権利をうばってよいはずはないのにな…
ゆるしてくれ明…わたしはおろかだった。

 

ここでいっつも涙ドバー!鼻水もドバー!タレちゃん状態。作中のサタンより豪泣している。
小1の時に読んでこの作品に取り憑かれ、今は小1の子供がいてもおかしくない歳になった。
しかし神の啓示を受けて描かれた現代の黙示録のようなこの超マンガの前では私は相変わらずcrybaby(泣き虫)だ。

 

crybabyと言えばそう!
先日、魔王ゼノンの宣戦布告のように全世界へ向けてNetflixで配信が始まった「DEVILMAN crybaby」である。

 

 

前に別の記事でも書いたが、私はこの作品のためにNetflixに加入。
配信開始日を原作版ジンメンぐらい首を長くして待った。
そしていよいよ運命のその日。「今夜はサバト!ついに始まった!踊らされるぞ!日本人ぜんぶが!」と歓喜の地獄のおどり&夜通し全話一気に観た。

 

…で感想なのですが……
実はちょっと前に一度書いて公開。
しかし後で読み返してみると、悪魔に取り憑かれたかのごとき、あまりにもひどいデビル悪口になってしまっており大後悔!血の気がドン引いたので削除。
そう!
つまり大変失礼ながら私はこの作品がどうもピンとこなかったのである。「つまらない」というよりピンとこなかった。「マインドゲーム」は物凄かったし湯浅監督のことはもちろん尊敬しているのですが。
私が観ててピンとこなかった「ん?」となってしまったポイントを、以下にちょっとあげてみます。

 

その1
合体前の明くんに魅力が無さすぎるような気が!
本作の不動明くんは「人の悲しみに共感してやたらと泣く」という設定。しかし「やさしい」というより「変人」…というよりなんかアホの子みたい…
しかも居候してる家のリビングでエロ動画は観てるらしい。その程度の性欲も抑えられないのに地獄の野獣・勇者アモンの意識を抑えられるとはとても思えない。
美樹ちゃんとかサタンに惚れられるとも思えない。
実際、美樹ちゃんには最後まで「家族だろ」としか言われてなかったが!
しかし天井まで噴き上げるデビル夢精はとても良かった。

 

その2
悪魔と合体することへの恐怖や悲壮な決意がない。
まあまあアッサリ合体。その合体も、原作を知らないと何が起こっているのか、どうもわかりにくいような…
そして続いてタメがない初めての変身。
原作やOVA版では白眉とも言えるあの名シーン。静寂からふつふつとわきあがってくる、悪魔のちから身につけた歓喜。あの「俺は!俺は!デビルマンだ!」感がとぼしい気が!

 

その3
本作の美樹ちゃんはハーフでクリスチャンで高校陸上界のスター選手。
マスコミにも取り上げられ「陸上界の魔女」と呼ばれたりする。
そして美樹ちゃんにまとわりつくゲスの極み記者がいる。
スターであることからねたまれ、ネットで水原希子さんを的にかけたりするタイプのキチガイ群衆によって誹謗中傷を流され、記者もそれに一役買い、魔女に仕立てあげられていくのか!超こわい!うまい設定じゃのう!…と思ったら違った。これらの設定はあんまり劇的に作用しない。途中ちょっと「外人!」とか言われるだけ。記者もアッサリ死亡。
せっかくドラマが盛り上がりそうな色んなうまい設定がもったいないような気が!

 

その4
どうも全体的にキャラの描き方が雑な気が!
美樹ちゃんはあの状況でマッパで風呂に入るだろうか?
お寺の住職さんとか親が殺されて明くんが泣いても、その人たちとの関わりがそんなにはキチンと描かれてないので「いや、その住職さんのことよう知らんし!泣かれても!」となってしまったのは私だけだろうか!?
キャラの裏切りも唐突すぎて「ん?」となった。人の心の弱さ、醜さを描いたことにはなっていない気が!具体的には幸田とラッパー2人。
(ちなみにラッパーのみなさんは演技がムチャクチャうまくてイイ感じでしたYO!)

 

その5
シレーヌのエピソードの印象が薄い気が!
一応、原作の展開をなぞり、同じセリフも言うのだが、愛することに不器用なデーモンたちの純愛の美しさがどうも出てないような…
カイムの「シレーヌ、血まみれでも君は美しい」というマンガ史に残る告りにも重みがない。失礼ながらシレーヌがあんまり美しくなくド淫乱ヒステリー怪鳥になってしまってるような気がする…からじゃなかろうか…?シレーヌオナニーはとても良かったが!
ちなみに原作やOVA版のシレーヌには、腹に風穴開けられ、羽根をむしられ、ボロボロになっても恐るべきデビルマンと必死で戦い続ける孤独な戦士の美しさがあった。
特にOVA版は途中から「がんばれ!シレーヌ!こわいデビルマンをやっつけろ!」と応援したくなることまちがいなし!OVA版シレーヌ、血まみれでも君は美しい。
それとカイムサンダーブレークを受けた時のデビルマンのカットはちょっとマンガチックすぎないだろうか?なんか「ガビーン!」って感じでトムとジェリーみたいになってたような気が!

 

その6
大詰め第9話。つまり美樹ちゃんのバラバラババンバン。
本当に胸が引き裂かれるような思いをする原作に比べると、ずっとマイルド。
美樹ちゃんの串ダンゴワッショイワッショイも黒塗りシルエットとドアップをカットバックさせて見せるという手法。つまり切り株は見えない。
これはあえての、意図的な見せ方なのだろうか?それとも放送コード的に「首チョンパ」というのが、たとえネットでも、かなり厳しいのだろうか?
ネットではないが以前WOWOWで「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」が放送された時も首チョンパがチョンパされており驚いた。
たとえNetflixでも難しいのだろうか?
本作の見せ方もスタッフの方々が、規制と必死で戦い、ギリギリのラインを攻めた結果なのかもしれない。
原作では「首なしタレちゃんの階段落ち」からの「ニタァ~」が決定的な絶望のダメ押しとして最凶の効果になっていた。
タレちゃんや牧村夫妻のエピソードは原作とまったく違うので当然これもない。そのぶんショック度も低いと思う。原作が、読んだらショック死するぐらいショック度が高すぎるというのもあるが!

 

その7
すべてを失った明くんが了と対面。
そこですごいいっぱいしゃべるのがなんか違和感。
「お前のために泣いてやりてえが、もう涙も枯れ果てた!」とか!
「俺はお前をぶちのめしたくてたまらねえぜ!」とか!
「必ずお前もいっしょに地獄に引きずりこんでやる!」とか!
しゃべりすぎることで、悲しみ、絶望、怒りなどが逆に伝わってこなくなってしまってるんじゃなかろうか?
そのあと「今度会った時は必ずお前を殺す。」とか言っていったんスゴスゴ引き上げるのもどうも……感情がどうなってるのかサッパリようわからん!しかし明くんを演じた内山昴輝さんは口から血が吹き出るような凄まじい名演でした。

 

その8
アーマゲドンのスケール感がない。
最初に出たバージョンの原作やOVA版の冒頭のように「何かよくわからんが凄い戦いが行われてるらしい!」ぐらいの、想像力を刺激するビジュアルのほうがいいのではないだろうか?
腕が飛び出すババンバン!足が飛び出すババンバン!な戦いもそれなりに楽しかったけれど!それとすべてが失われたアーマゲドン後の余韻…を失わせるエンディング曲の流し方はちょっとあんまりな気が!

 

その9
デーモンやデビルマンたちの血が黄色い。
やっぱり豪ちゃん作品のダイナミックに噴き出す血は鮮烈な黒!…じゃなかった赤!…がいいのではなかろうか?

 

その10
ラップ、陸上、バトン、ピアス、テレビアニメ版への目配せ…う~ん…特にピアスはやたらキラリしてたけど…そんなに意味あるだろうか?

 

…と、このように私にはどうもピンとこないポイントが多い作品であった。
ところで私は映画秘宝などで活躍していらっしゃる岡本敦史さんの文章がとても好きだ。
その岡本さんがSNSや記事で絶賛なさっていたので「これは原作級の衝撃作になっているにちがいない!」と楽しみにしていたのである。
鑑賞後、小首をかしげて「う~ん…」となってしまった私は「岡本さんはなぜ、あんなに誉めていたのだろう?」と思った。
そんな時、カナザワ映画祭の主催者・小野寺生哉さんの次のようなブログ記事を読んだ。 ↓

 

あれ!?「DEVILMAN crybaby」 - カナザワ映画祭公式ブログ
カナザワ映画祭などの情報

 

似た感想を持つ方がおりちょっとホッとしたのだが、「小銭もらって褒める映画ヒョーロンカだかライターだかがほとんどで信用できねえ」の箇所にはちょっと反対だ。
岡本さんや気骨ある映画秘宝のライターの皆さんがそんな文章を書くとは私にはちょっと思えない。
実際「君の名は。無双」が吹き荒れ、批判したら袋叩きにされそうな雰囲気の中、岡本さんはあの作品をキチンと批判しておられた。
岡本さんはきっと「DEVILMAN crybaby」に本当に感動なさったのだと思う。
そして岡本さんだけではない。Twitterなどでも絶賛している方が圧倒的に多いのである。

 

そこでふと思った。
これは作品が悪いのではなく、自分が悪いのかもしれないと!
だいたい私は物心ついた頃からいわゆる「感動ストーリー」で泣いたためしがない。
「タイタニック」を観れば「おばあちゃんのエロいい話」にニヤニヤし!
好きな女の子に「北の国から」のビデオを全話貸されれば〈観る拷問〉と感じ!
ガマンして長時間5分ぐらい観てやっぱどうしても耐えられず!どっかであらすじを読んで「な…なかなかよ…よい話だったよう」とか何とか後ろめたげに田中邦衛みたいにボソボソ適当に話を合わせバレ!フラれ!
「ハクソーリッジ」を見れば手榴弾をビンタ&キックではじきとばすアンドリュー・ガーフィールドに爆笑!そう!それが私!

 

「DEVILMAN crybaby」のこの感想も読み返してみると「首チョンパがない…」「切り株が見えない…」「血は赤がいい…」など、変態連続殺人鬼の独りごとみたいになっている。
正直を申すと私は観ててかなり居心地の悪さを感じモジモジしてしまった、美樹ちゃんのツイートで人々が心を開いていくシーンや、ミーコのバトンを美樹ちゃんが受け取って走り出すシーンなども、たいていの人は素直に感動するのではないか?サタン同様、きちんとバトンを受け取り涙するのではないか?
怒りと炎の原作では泣けても、感動エピソード多めの本作では泣けない私は過去のどこかある時点で、悪魔に取り憑かれており、すでに人間の心を無くしてしまっているのではないか?
そしてそのことがこの記事でバレてしまったのではないか?
………。
悪魔狩りが来る前に逃げろ!
(終わり)