映画秘宝の想い出

 

かれこれ10年以上買い続けてきた《映画秘宝》が休刊になってしまった。
薄給のため給料日ですら『闇金ウシジマくん』に出てくる人の顔でションボリ明細を見つめている私の、月にたった一度のお楽しみが無くなってしまった。
仕事を終え、何びとたりとも邪魔できぬ神聖なる”大人の男の俺タイム”に、ポテチとカルピスソーダを用意し、宝箱を開けるようにワクワクしながら《映画秘宝》の表紙をめくるあの至福の時が失われてしまった。

 

己の文才の無さに七転八倒しながらブログなどでコラムやアニメレビューを執筆している私にとって《映画秘宝》は憧れの凄まじい文豪集団だった。

 

私は何かを読む時はいつも付箋を用意し、キラリ輝くハッとするような美文名文に出会ったらそこに貼り付けておく。
そして、よく使われる言い回しや比喩表現など、文章技術ごとにカテゴリー分けしたファイルの該当するページに、付箋をつけておいたその文章を後でせっせと書き写している。

 

 

 

マンガ家を夢見るチビッ子の模写トレーニングのように、これをコツコツずっと続けている。
文章力アップのためだ。

 

自分に突き抜けた文才がないことはイヤと言うほどわかっているが「文章を書くすべての者が天才でなければならない」ってことはないはず。
そして「天才的な文章を書くことは無理でも、こうして気をつけて読み、書き写すことで、学べる領域もあるはず。凡人でも使える技術や公式のようなものが、文章の世界にもあるはず」と考えたのである。
例えば、今まで読んできた《映画秘宝》の中に下記のような文章がある。

 

『マッドマックス』ミーツ『大草原の小さな家』みたいなもの

(by ギンティ小林さん)

 

『ロボコップ』ミーツ『鉄腕アトム』って感じなんだけど

(by 中野貴雄さん)

 

『600万ドルの男』ミーツ『狼よさらば』に。

(by 市川力夫さん)

 

…と、このように多くの映画秘宝ライターの方々が使っておられる《A ミーツ B》という表現。
これは明らかに数学の公式のようなものだ。パクリではなく誰でも学べて使える技術だ。私にもできるはずだ。
たとえば、この公式を使って、私が大好きな塚本晋也監督作『鉄男Ⅱ』のことを表現すると……
『鉄男Ⅱ』のことを………《A ミーツ B》という公式を使って…………
うまい表現をすると……………………
………………………………
全然うまい表現が浮かばん!

 

私の「俺ジナル文章トレーニング法」の効果の是非はともかく、文豪集団である《映画秘宝》は美文名文秘宝!ザックザクな宝の山っぷりに読むといつも付箋まみれになるのである。

 

 

以下、今まで読み続けてきた《映画秘宝》の中で見つけた、宝石のような想い出の名文を、一部ではあるがライターの方ごとに少しだけピックアップさせて頂く。
この素晴らしい文豪の皆さまが健筆を存分に振るえる場所の復活を祈って!

 

 

映画秘宝ライターズ名文集

(敬称略、五十音順)

♪akira

(オーシャンズ8の)リクルート行脚シーンはなぜこんなにアガるのか!

 

女王が選んだ結末とは?衝撃のラスト、コールマンの女優魂にひれ伏せ!

 

 

アサダアツシ

どれだけ美しいのかゼメキス監督の過去作『コンタクト』にこんな台詞がある。「それを言葉にできるのは詩人だけ」

 

 

杏 レラト

(ルディ・レイ・ムーアは)卑猥でインチキ空手を披露するずんぐりむっくりなリアル両津勘吉のような人だ

 

 

石熊勝己

まさにW主演として映画を支えた「PARTⅡ」の「Ⅱ」はデ・ニーロとパチーノ、巨大な2本柱のことだった(映画『ゴッドファーザー PARTⅡ』について)

 

 

市川力夫

家の中は、SiriやAlexaみたいなおしゃべりクソAIが幅を利かせ

 

元特殊部隊で最強のハゲという、髪はないけど夢のある設定

 

出演陣はアイドルあがりのイケメンばかりという残念なことになっていますが

 

主演のテイラー・ロートナーも「ティーン向け吸血鬼映画『トワイライト』シリーズで大人気」というどうでもいいキャリアの持ち主ですが

 

 

伊藤美和

ヒロインの職場である国境はもちろんのこと、現実とファンタジー、人種、ジェンダー、美醜、善悪のボーダーを行き来する挑戦的な作品なのだ(ドラマ『ボーダー』について)

 

治療のために負傷者のヘルメットをはがしたら頭がちぎれて脳みそがコンニチワ

 

作り手の性格の悪さがしのばれるエグい描写が素晴らしい

 

 

岩本克也

溶解人間は溶けて消えたが、稀代のキャラクターと作品の放つ奇妙なテイストは多くの観客の中に残ったに違いない

 

 

浦川 留

棠真の年相応の純情と内面の闇を天性の演技力で見せきった「恐ろしい子!」ヴィッキー・チェン14歳である

 

 

江戸木純

セガール市場開拓

 

子供が2台のバイクでカランバされる鬼畜シーンは衝撃

 

中学生の描いたような迷セリフの数々が冷房効果満点

 

 

大西祥平

武蔵の剣を「なべのふた」でドラクエばりに受けたというトリッキーな伝説をもつ剣豪・塚原卜伝

 

中年童貞 ミーツ ノアの箱舟なスペクタクル

 

『流浪のグルメ 東北めし』の最終3巻をじっくりかみしめる

 

 

岡本敦史

『坊ちゃんの時代』と『地下鉄のザジ』を足して『イエローサブマリン』でかきまぜたような楽しさに満ちている。

 

国宝級ハゲちゃびん俳優キム・サンホ

 

近所の中華街に「中国」とテロップを被せる『漂流街 THE HAZARD CITY』システムを採用

 

ユベールの演技力と、ヴァーホーベンの蛮勇演出が悪魔合体!

 

お手製のレーザービームを装着し、凶暴なゼウスの配下たちをあっという間に切株連合に変貌させる!(映画『ターボ・キッド』について)

 

 

餓鬼だらく

つじつまを合わせようと散髪しに行くシーンをわざわざ入れる無駄な努力は必見だ

 

 

加藤よしき

アンジェロ役は三池組の若頭・山田孝之

 

お客様は神様です!それ、AK-47自動小銃の前でも言えますか?『ホテルムンバイ』は、この質問に「YES」と答えた人々の物語だ

 

 

キシオカタカシ

殺しが楽しくて仕方ないというナチュラル・ボーン・キラーっぷりは、リュック・ベッソンの「ぼくのかんがえたきょうあくなおんなせんし」という中学生レベルの妄想が結実したものと言えよう。

 

若い蕾が花開くのを見守る光源氏計画もまた乙なものである

 

 

キルゴア中佐

こんばんは、俵幸太郎です!キルゴアだ!

 

サザエでございまーす!キルゴアだ!

 

どうして6月には祝日がないのか!最低でも週8日休みが欲しい!

 

 

ギンティ小林

ジョシュ・ブローリンが演じるのは『ワイルド7』の草波さんとゴリラを足したようなハードコア・ジャスティス精神のオーナー

 

俺の腎臓を返せ!奪われた臓器を取り戻すため、ヴァン・ダムがフィリピンで力の限り股を開く!

 

生首切断など数々の残虐描写が立体映像で楽しめる心のこもった作りになっている

 

長渕剛さんが殺された仲間の復讐をするために殺人ゲームショーに参加するというサンダードーム魂溢れるもの

 

人間核弾頭の省エネ無双ぶりをぜひ堪能してください

 

分厚いハードカバーの本を武器にしたブック・フーを披露

 

ナメてた相手が実は殺人マシンでした

 

ナメてた中古車が実は戦闘ロボでした

 

ナメてた按摩さんが実は居合の達人でした

 

 

斉藤工

監督が生みの親なら配給は育ての親と言っても過言じゃない。そして”その子”が育つ環境が劇場である

 

 

神武団四郎

「ふつう生き残るだろ」的な連中を容赦なく殺す無情さも小気味よい

 

複雑な造形のギルマンは、人気は高いがまともなリメイクがない希少種

 

 

杉作J太郎

ドル安ですか…(ドルフ・ラングレンが安い作品にばかり出ているという報告をうけて)

 

ミスター犯人・松橋登さん

 

 

セルジオ石熊

なるほどこれがマカロニの最低作か、と勉強しておけるのが最大の長所だ

 

 

添野知生(そえの ちせ)

映画を観終わると街に飛び出し「わたしもダニエル・ブレイクだ!」と叫びたくなる

 

 

高橋ターヤン

人の話を聞かないイタリア軍のキチガイ司令官など、なかなか見所が多い映画でした

 

『天国の門』で地獄を見たM・チミノ監督のカムバック作

 

 

高橋ヨシキ

『ピラニア3D』のスクリュー巻き込まれ顔面一瞬剝がしや『ランボー 最後の戦場』のマシンガンミンチ

 

恐竜騎馬戦車が空洞地球を突っ走るところが観たくない人など、この世に存在しないのだから

 

 

多田遠志

スナイパーという無口で動かなくてもキマる転職を見つけたセガール

 

 

田野辺尚人

『オルタナティブ3』の謎を解説する大学教授が語る地球滅亡の過程は、同じく危機的状況にある『インターステラー』の5万倍の恐怖を感じさせる

 

徹底したノンストップ攻撃的演出で「日本のジョージ・ミラー」の異名をとる白石晃士

 

監督は21世紀の鈴木則文こと山口雄大だ

 

全身不良映画監督・小林勇貴

 

カッコいい映画なのでこちらも夜露死苦!(映画『孤高の遠吠』について)

 

まだまだ『マッドマックス』シリーズと共に走り続けるぞ!という意気込みが満タンだ

 

『アナ雪』なんか知らん!ほっといてと歌っているんだから、ほったらかしにしておけばいい!

 

心霊スポットで暴れまくり、遂には巨大化して怪物と戦い、しまいには空を飛び時空を超えて地球を救った映像ディレクター、工藤仁は前代未聞のピンチに直面していた。彼がリリースする人気シリーズ「コワすぎ」の売れ行きが落ちてきたのだ

 

 

Tsuneglam Sam

ヘリクツを通り越したゴリクツでゴリラ入団をゴリ押し!読めない展開に目が離せなくてゴリ夢中(ゴリラが球団で活躍する韓国映画『ミスターGO!』について)

 

 

てらさわホーク

安心できないのがリメイク版『ロボコップ』である。『市民ケーン』にも並んで歴史に名を残す、あの完璧すぎる大名作をなぜ今、作り直すのか

 

(アイリッシュマンは)それぞれの至芸が限界まで極まる米国裏社会残酷史

 

 

床山皇帝

最後は角砂糖の弾丸を撃ち込まれ弱ったところに手榴弾をアーンされて爆発四散

 

 

友井健人

キングギドラは高度経済ニッポンの輝きを映した”黄金の昇り竜”だった

 

 

中野貴雄

パイロットが命懸けで搭乗して戦うマジンガーZシステム

 

♪歩こう~歩こう~が物語の主題なのだ。さすが、ギレルモ・デル・トトロ!

 

ガ・キーンは主人公たちがマグネマンに変身し、男ロボ、女ロボに搭乗し、そこから飛び出してスイートクロス。六角形のコアパーツとなり、メインマシンになるという、もう何を書いているのかわからないシステム

 

 

長野辰次

自然淘汰の荒波の中で進化を遂げながら生き残った強い種、それが三池崇史だった

 

 

ナマニク

ゴアシーンコラージュムービー

 

オレンジで人を殺す恐怖のドン百姓殺人鬼『Orange Man』

 

現代の闇市メルカリ

 

自らの体を強化することで愛情や劣等感の穴埋めをしようとして”破滅”という別の穴を掘り進む

 

 

人間食べ食べカエル

こんなに酷い仕打ちは地獄にもないと思う

 

ぬまがさワタリ

公開一年ですでに古典

 

 

長谷川町蔵

「兵器会社なので色んな武器が社内にある」という技あり設定

 

二兎を追って両方仕留める奇跡の作品作りを行っている

 

昨今の”カンバブル”の勢いに乗ってソフト化された

 

 

花くまゆうさく

そのスーツが度を超えて特殊すぎるので話が面白くなりすぎてしまい、そのテーマはアリのように小さくて見えないかもしれないが(映画『アントマン』について)

 

 

藤木TDC

ジョン・ウー学校の永久中学生にはたまらない打ち上げ花火

 

半端ないダークさで気弱な観客はチンコが体内にめり込むこと必至

 

独房から解き放たれた囚人たちが中央広場に集められ毎月ケンカをしないと懲罰。勝てば快適なヴァーチャル・リアリティ休養室で一服できるという小学生の妄想のような施設

 

 

町山智浩


『怒りのデス・ロード』は『エルトポ』『ホーリーマウンテン』が時速100キロの戦車で攻めてくるような映画だ!

 

ここから始まる銃撃戦についてはもはや何を言う必要もないだろう。映画史上最大で最悪で最高だ。(映画『ワイルドバンチ』のクライマックスについて)

 

こんな地獄のような映画を喜ぶのは「映画秘宝」の読者だけ(映画『エイリアン コヴェナント』について)

 

 

真魚八重子

『ジョン・ウィック』のヒロイン、いやヒロイヌと化したピットブル

 

あやや(若尾文子さんのことを)

 

志麻さんはとにかくド迫力。極太なイチモツがぶら下がってるレベル。

 

 

みうらじゅん

パンフを買ってプロフィールを読んだらオレよりも5つも年上で驚いた。その日以来、オレはリーアム・ニーソンを”リーアムにーさん”と呼ぶことにした

 

怪獣映画としては1作目『ゴジラ』以来のジラシ―プレイ。ゴジラシとでも言いましょうか。

 

このたび新たにDVDを購入したところ、すでに持っていたという老いるショック

 

 

三留まゆみ

愛すべき怪怪怪怪作!(映画『怪怪怪怪物!』について)

 

 

森直人

見事なトドっぷりでサウナに寝そべるおっさんたち。

 

監督はNYの裏番アベル・フェラーラ

 

ポップな色彩と計算の行き届いた構図、とぼけたリズムなど、ジャック・タチのような可愛い外面を持ちながら、中にはジョン・ウォーターズのうんこが入ってました!みたいな毒まんじゅう的傑作だ

 

 

モルモット吉田

映画に出すなら名探偵より迷探偵のほうが面白くなる

 

強靭かつ狂人なアクの強さを持つ主人公

 

石綿という見えない銃弾は、長い時間をかけて体内に突き刺さり、発症して死亡させる

 

 

柳下毅一郎

ミヒャエル・ハネケが『ハッピーエンド』という映画を作って、それで本当に映画の最後にハッピーエンドが待っていると信じるようなお人好しはもはやこの世にいないだろう

 

 

山崎圭司

ホラーファンなら誰もが患う流血不感症

 

ヒッチコックの格差婚スリラー『レベッカ』

 

死神に狙われるピタゴラスイッチ系スラッシャー

 

『死霊の罠』がロマンポルノの手触りを残した肝試しスプラッターなら、本作は露骨な悪意に満ちたアブノーマル我慢大会

 

 

ロビン前田

デコボコなトレホに対し、ヌメッとしたいい顔の持ち主カリートとの弾丸ならぬ男顔対決の軍配は果たしてどちらに?

 

人体破壊、滝のごとき血しぶき、人間バーベキューなど、近年稀に見る過剰なまでのグラインドゴア描写で作られるという親切設計

 

ハゲでデブでガンキチ、そしてデスメタルをこよなく愛するという信頼できる要素しか見当たらない上にバイオレンスに容赦ない男

 

NYが危険地帯となってしまったことを冒頭のテロップだけで簡単にお知らせする省エネ演出がキラリと光る

 

 

鷲巣義明

体表と同じく白黒つけてやるぜの意気込みを見せる!(映画『オルカ』について)

 

 

ん(キ・ターヴォ)

感染すると、ひでぶ死は免れない

 

「登場人物のほとんどを知名度のあるキャストで埋めつくさなければならない」というエクスペンダブルズ憲章

 

人類とワンちゃんのシビルウォーを描いた『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』

 

ドミニク・パーセルさんがSWAT参上ズバッと解決しちゃうんですよ

 

「とんでもないことが起こっているはずなのに気分は眠くなる一方」のアサイラム体験を満喫できます

 

イタリア発グロ&バイオレンスの総合商社「ネクロストーム」

 

ひょっとしてバンデラス、マリアッチゃうの?

 

(おわり)

※《映画秘宝》休刊号です。「終わり」じゃなくてあくまで「休み」だと思いたい!