遅くなってしまいましたが、昨年2019年に観た映画の個人的なベスト10を発表させて頂きます。
ところで日本の全映画ファンのみならず、アジア、ヨーロッパ諸国、そして全米が泣いた《映画秘宝》の休刊には、私も当然『ミスト』のラストの100倍ぐらいの悲しいショックを受けました。
「売り上げの不振」ではないのに、雑誌が終わることがあるなんて!
月に一度、放課後、コロコロやボンボンを手に入れて家路を急ぐ昭和チビッ子のようなワクワクを、大人になった今も感じることのできる、10年以上買い続けてきた紙雑誌…いや神雑誌だったのに!
でも、毎年恒例のお祭り企画「ベスト&トホホ10」が組まれた、楽しいんだか悲しいんだかよくわからん休刊号の表紙右上には、あの名作のこのセリフが高らかに掲げられていました。
そう!
「バカヤロウまだ始まっちゃいねえよ!」
壮絶なバイク事故から見事に復帰して傑作青春映画『キッズ・リターン』を撮った北野武監督もビックリの映画秘宝リターンを願いつつ、私も元気を出して楽しく「ベスト10」を爆選したいと思います。
2019年度に観た映画の個人的ベスト10
※(昨年公開された映画ではなく、観た映画です)
10位 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
脚本は前作と同じく人間ドラマパートが退屈だし、派手なシーン満載だが演出に溜めやメリハリがあんまり無いのでインパクトが薄れてしまう気がした。
しかしザ・ピーナッツの「あの歌」にちゃんとオマージュをささげた、幻想的かつ荘厳なモスラ孵化シーンはさすがにアガった。監督さんのチビッ子みたいに熱い怪獣映画愛は本物だ!
「キング・オブ・モンスターズ」というサブタイトルに確かに納得な「あのラストカット」にもニンマリ。
9位 『グッド・アフタヌーン/Good Afternoon』
「シネマアンソロジーひろしま」という上映イベントで観させて頂いた30分の短編。
結婚して子供もいる姉妹。
お盆に集ったその二つの家族が、親の介護問題をきっかけにピリピリギクシャクし始めてしまう夏の午後の一幕を描いた作品。
静かに淡々と進みつつも、何かこの世の終わり級のとんでもなく恐ろしいことが起こりそうな、不吉な緊張感、底知れぬブキミさをはらんでおり、ホラー映画ではないのに異様に怖かった。
鑑賞後『グッド・アフタヌーン』というタイトルが皮肉、嫌味に響いてくる感じですごい良かった。
ところで『呪怨』以来、斬新なホラー表現というのは打ち止めになっている気がする。
恐怖がせまってる時にギョワ~ンみたいな効果音がだんだん大きくなる、幽霊用の白いワンピースと同じぐらいもはや使い古されてしまった演出とか、何の疑問も感じずにやってしまってる作品もチラホラ。
なので本作の山本英(やまもと あきら)監督に、ありがちホラー演出から遠く離れた、不吉きわまりない、新しい恐怖映画をぜひ撮って欲しいと思った。
8位 『歯まん』
タイトルの印象から「エロコメディーっぽい作品かな?」と思ったら全然違った。どシリアスな悲恋スプラッターだった。
チンチンを喰いちぎる凶暴な下半身を持ってしまった繊細なヒロインを見事に演じた馬場野々香さんは、インディーズ映画ながら濡れ場でもキチンとひと肌脱いでおられ超立派。「この人なら歯まんでもかまわん!」と思うこと間違いなし。
「ラブシーンに体当たり!」とか言ってビックリするぐらい全然脱がん、メジャー日本映画のガッカリCM女優たちは見習うべしと思った。
殴ったり、四つん這いにさせたり、ナスを無理矢理くわえさせたりしつつチョイチョイ褒める胸糞暴行テクを駆使して被害者をまいらせていくレイプ八百屋を見事に演じた宇野祥平さんもさすがの存在感。
また、本作一番と言えるであろう「あのサプライズポイント」を担う重要なお姉さん、みどりを演じたのは水井真希さん。
舞台挨拶で生でお姿を拝見したのですが、さすが監督もなさるだけあって聡明。トークコーナーをぐいぐい楽しくリード。そしてもちろんめっちゃ美しかったです!
7位 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
タランティーノはデビューの時からずっとリアルタイムで観ており、当然、ナチこらしめ映画『イングロリアス・バスターズ』のあの歴史改変も経験済み。
なので「シャロン・テート事件を扱った作品」と聞けば「きっとラストはそうするつもりなんだろうな…」と予想はしていたが、予想をはるかにバスターする徹底的なこらしめっぷりでスカッとした。
ブラピのうだつは上がらぬがいじけたりねじ曲がったりしておらず友だち思いなナイスガイっぷりもイカす。
マーゴットロビー演じるシャロンテートが、出演作を映画館で観るシーンは幸福感にホロリ。
アル中ディカプリオを叱咤激励するあのいばりんぼロリータにも、監督の思惑どおりまんまと萌えた。
ブルース・リーの「あの扱い」には、熱狂的なファンではない私もちょっとビックリ。
『キル・ビル』でユマ・サーマンにトラックスーツを着せていたので、タランティーノはブルース・リーの大ファンなのだと思っていた。違ったのか…
ブラピとのタイマンは「お前なかなかやるな」的な引き分けにしたほうが、より映画が持つ多幸感もアップしたと思うのだがどうだろう?
6位 『メランコリック』
「閉店後の深夜に、殺人と死体処理に使われている銭湯の話」という情報だけしか知らずに観に行って驚いた。
タイトルの雰囲気からも「陰鬱なホラーっぽい作品かな?」と思っていた。
そしたらまさかまさかの…あんな「全部のせ映画」だったとは!
急に『ザ・レイド』ばりの本格アクションが始まった時はポカーン!
他にもサスペンス、ホラー、ハードボイルド、コメディー、青春、恋愛などなど…さまざまなジャンルを駆け巡りまくった末の着地点にもビックリ!
他人に冷たいコミュ障かと思ったらなにげに友達想いの主人公や、おバカな金髪チャラ男かと思いきや凄腕殺し屋でしかもナイスガイだった相棒などなど…登場人物たちのキャラもみんなキチンと立ちまくり。
特にヒロインを演じた吉田芽吹さんがカワイイ!笑顔が太陽ぐらいまぶしい!主人公ならずともキュンと甘い気持ちが芽吹くこと間違いなし!
そんなこの作品。何かモノを作ってる人は鑑賞後「負けた…」とメランコリックになるに違いない。
5位 『アストラル・アブノーマル鈴木さん』
やさぐれてても、中身は痛いユーチューバー男子でも、ニートの正装・灰色のスウェットを常時着用してても、松本穂香さんがめっちゃカワイイ!
パンフレットもまるで「松本穂香本」のような写真満載の作り。買って良かった。
起こってること自体は痛々しいし、ラストにも、よくありがちなわかりやすい救いがあるワケではない。
でもなんかちょっと「まあ生きててもいっか」みたいな気分になる絶妙な味わいも良かった。
観た人みんなニヤニヤしたに違いない、あのダラダラと延々続くケンカシーンはもちろん最高!
序盤であきらかになる「アレ」もビックリ。何も知らずに観て良かった。
すっかり松本穂香さんと大野大輔監督のファンになり、その後に上映していた同監督作『ウルフなシッシー』も続けて観てしまった。
こちらもすごかった。
倦怠期カップルのオールナイト痴話ゲンカだけで面白く観せ切ってしまうとは!
監督ご自身がカップルの彼氏をガッツリ演じておられ、「撮れて演れる」ってすごい人だと思った。
『さいなら、BAD SAMURAI』もなんとか観れるようにならないかな…
4位 『火口のふたり』
あれは〈現象〉として凄いだけで、映画の出来としてはどうなのよ。問題外じゃないかな?
(映画秘宝インタビューより抜粋)
『カメラを止めるな!』に対する上記の荒井晴彦さんの発言には「いや!ちゃんと上出来だわ!極上のカタルシスが生まれるようにメッチャ練られた上出来な脚本の映画だわ!」とプンスカしていた。
また編集長を務めておられる季刊誌《映画芸術》がアニメ作品をベスト10の選考から除外したことに関しても、アニメが青春で、その想い出を『80年代OVAのススメ』というサイトで刻みつけようとしているような人間なので、なんかモヤモヤしていた。
なので本作を観る際、もしもつまんなかったら「やーい!偉そうなこと言って自分のはつまんねーでやーんの!だいたいアーティストもアスリートと一緒!年齢と共に衰えるの!おじいちゃんにもうおもしろい映画撮れるワケないでしょ!ざまーみれ!」とメッチャ笑ってやるつもりだったのですがメッチャおもしろかったです…
主演のお2人がほぼセックスと食事してるだけのお話でなぜこんなに面白く観れるのか?
愛欲に溺れる日々の中で浮かび上がってくる2人の関係の秘密、そして終盤明らかになる「ある事実」がもたらす終末感と不思議な解放感…
まんまとのみこまれた。メッチャおもしろかったです!
ちなみに18禁。そのぐらいセックスシーンは超濃厚。
やりまくりの日々をやりきった主演のお2人に拍手。そしてさすが日活ロマンポルノで数々の傑作脚本を書いてこられた荒井晴彦さんである。
それにしても「御年72歳でこんなビンビンのエロシーンを撮れるのか…ワシなんかよりずっとビンビンではないか…」と驚きました。
いやーホントきもちいいな!セックス!忘れてたよ!
3位 『恐怖の報酬 オリジナル完全版』
若かりし頃「車と爆発がボカーンボカーン!最後はカップルがブチュー!ばっかのハリウッド映画なんかにワシは興味はないんよ。君らとは違うんよ。もっとシブい作品を好む映画通なんよ。」の顔で、フリッツ・ラング、ラウォール・ウォルシュ、ジャック・ベッケルなどなど…レジェンド監督のモノクロ映画ばかりレンタルビデオ屋で借りて観て「ワシ…シブいのう…」と思ってる映画痛な時期があった。
その中にクルーゾー監督の『恐怖の報酬』もあり、当然、あのシンプル&ストロングなサスペンスに息を飲んだ。
レンタル屋の棚にクルーゾー版と並んでハリウッド版のビデオも並んでいた。
「本家に比べるとハリウッドリメイク版はやっぱり全然ダメ」的な記事を何かで読んでいたこともあり、それを鵜呑みにして「ワシはしょーもないハリウッドリメイク版なんかに興味はないんよ」と、見向きもしなかった。
日本で公開&ソフト化されたものは、ズタズタにカット編集された、監督にとっては不本意極まりない『短縮版』だとは知らなかった。
つまり、私はアホだった。
ウィリアム・フリードキン監督のこのハリウッド版『恐怖の報酬 オリジナル完全版』はリメイクじゃない。
こりゃ、原作およびクルーゾー版をイマジネーションの源泉にした、まったく別のものだ!
雨、泥、油、汗、血、涙に観客もネットリドロドロにまみれる恐るべきおつかいムービー。
地獄めぐりの果てに、ニトロをついには手に持ってフラフラと夜の岩場を走るロイ・シャイダーの姿は、アクションやサスペンスというジャンルを突破して悪夢のような幻想映画の領域に突入していた。
伝説の「激重おんぼろトラック吊り橋突破シーン」の超重厚なド迫力は言わずもがな。
観てて映画に踏みつぶされるかと思った。
2位 『THE GUILTY/ギルティ』
ワンルームで、電話の会話だけで展開するサスペンス。
それなのに、疾走する白い車、おびえた子供が待つ部屋、そしてあの陸橋…
見えないはずの風景がハッキリと見えてくる凄い作品だった。
制作費はいったいどのぐらいだったのだろう?
素人考えだが、この素晴らしいアイディア、脚本なら、莫大な製作費は必要ない気がする。
「お金がないから映画作れないなんて言ってちゃダメだな…」と思った映画人の方も多いのではないだろうか?
1位 『霊的ボリシェヴィキ』
ジャパニーズホラーの代名詞『リング』の脚本で全世界を恐怖の連鎖に引きずり込んだ高橋洋さんが『怪談新耳袋』でついに監督デビューなさった時、私を含め日本中のホラーファンは歓喜で絶叫した。
そして発表されたその作品『庭』は、恐怖映画を浴びるほど観てきたホラーファンですら血の気がドン引く、期待以上の完成度であった。
本作をあまたの監督たちがその腕を競った『怪談新耳袋』史上の最恐エピソードとしてあげる方は多いだろう。
私はいわゆる「高橋洋信者」ではない。
DVD化されておらず、長らく上映イベントなどでしかなかなか観ることのできなかった、激レアカルト作にして最恐夫婦ムービー、高橋洋脚本作品『インフェルノ 蹂躙』のVHSビデオを、ビックリするぐらい高価な謎の縁起の良い壺と同じぐらいの値段でネットで購入した程度である。
「インフェルノ蹂躙」のVHSのビデオを持っているのですが、TLを読むと「観たいのにどこにも無い!」と嘆いている方が多いようで、何か独占してるみたいで申し訳ない気持ちになってきました…2月12日に「めをと映画祭」で上映されるもよう!近隣の方はぜひ!確かに「めをと映画」です…最恐の… pic.twitter.com/4N2YxBcQ6U
— 倉井スエ (@KuraiSue) January 21, 2017
なので、今回の『霊的ボリシェヴィキ』はクラウドファンディングに参加。
特典で鑑賞券を頂いたのだが、ガーン!広島では上映なし!
なのでソフト化を待っての鑑賞となった。
「怪しすぎる実験」「俺ジナルソング」「ビシッと指差し」「杖をつく女」「こわい脚」「こわい光」などなど…
高橋洋さん印が押されまくった期待通りの面白さだった。久々に連続で2回観てしまった。
韓英恵たんのクライマックスの「ペンギン歩き」可愛かったナ!(『ピストルオペラ』のあのチビちゃんがこんな綺麗なお姉さんになるなんて!)
エンドマークの出方も超カッチョいい!
それにしてもあの「俺ジナルソング」をみんなで歌うシーン。
映画館でお客さんたちはどんな反応だったのだろう?どよめいたのではないだろうか?
やっぱり好き者が集う映画館で観てみたかったな…
- 10位 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
- 9位 『グッド・アフタヌーン/Good Aternoon』
- 8位 『歯まん』
- 7位 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 6位 『メランコリック』
- 5位 『アストラルアブノーマル鈴木さん』
- 4位 『火口のふたり』
- 3位 『恐怖の報酬 オリジナル完全版』
- 2位 『ギルティ/GUILTY』
- 1位 『霊的ボリシェヴィキ』
以上が私が昨年観た映画の個人的なベスト10です。
他には…
1カット1カット気合が入りまくりの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』
手造りSF感がたまらん、『ワイルドバンチ』ばりにカッチョいい横並び歩きも観れる『スモーキング・エイリアンズ』
めくるめくよな「ワカミホさん5へんげ」が堪能できるオムニバス『プレイルーム』
そのワカミホさんも時々香盤なさる、中国地方で唯一ストリップが鑑賞できる《広島第一劇場》を舞台にした切なくも美しい地元ムービー『彼女は夢で踊る』
広島の名物映画祭に成長しつつある《こわい映画祭》で観た、きちんとした恐怖演出に震える『ちかくて、とおい』
出演したティルダ・スウィントンが言ってた通り「リメイクというよりカバー」な、画面だけでなくパンフレットまで真っ赤に染まってた地獄のようなルカ版『サスペリア』
初監督作『青春夜話 AmazingPlace』で一夜の竜宮城へ連れて行ってくださった切通理作さん脚本の、自由でエロかわいい『溢れる淫汁 いけいけ、タイガー』
主演の女の子のかわいさに殴り倒されること間違いなしの『あみこ』
ホンマに1984年の頃に観てたら、あの少年と同じくガッチリとトラウマを植え付けられた気がする、若い人にもわかりやすい例えで言うと世界名作劇場『トムソーヤの冒険』の「インジャン・ジョー、裁判所で大暴れ」ばりに怖い『サマーオブ84』
…などなども、どれもとても面白かった。ワーストはなし。当たり前だ。貧乏ヒマなしだから自分の好みっぽい作品だけ選んで観とるからな。
昨年は映画館にあまり行けず、ソフト化されてから観ることが多かった。
今年はなるべく映画館に行きたいな!
そう!復活した『映画秘宝』でワクワク作品を選んでから!
(おわり)